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一台のWindows PCで複数のペンタブレット・液晶ペンタブレットを共存させ、『Wintab API』でソフトごとに使い分ける方法

※2018年9月24日改訂
記事タイトルと前書きが、記事の目的が伝わりにくいと思われる表現(”Wintab API で無条件にアプリケーションの区別無く、複数のペンタブレット液晶ペンタブレットを同時に使用できるようになる”と受け取れるような内容)となっていたため訂正しました。

 ”ペイントソフトで Wintab API による入力を受け付け、無条件に全てのペンタブから入力できるようにする方法”ではありませんのでご注意ください。こちらが目的の場合は、難点(*)がありますが TabletPC API で入力を受け付ければ達成できます。

* 中国メーカ製液タブでジッタが増えて線のよれが増える場合がある

 

 ペンタブレット(板タブ)・液晶ペンタブレット(液タブ、以下特記する必要が無い場合は、総称してペンタブと称します)と言えば、長らく Wacom の独壇場でしたが、近年は UGEE・XP-PEN 系(Artist15.6 や Artist16Pro)、HUION・GAOMON 系(GT-191 や PD1560)、ARTISUL(ARTISUL D16)など様々な中国メーカの安価な製品が選ばれることもあるようで、実際、自分も自室作業用の液タブとして XP-PEN Artist16Pro を購入しました。

 しかし中国メーカ製のペンタブは、まだまだ Wacom 系のペンタブと比べて未熟な部分があったり、慣れるまでの間や用途によっては、従来から使用している Wacom の板タブなどを使用したい場面もあると思います。

 しかし、ペンタブのドライバを通常の手順でインストールすると、先にインストールされていたペンタブのドライバの一部を上書きしてしまうため、異なるメーカ・世代のペンタブを同時に使用することはできないとされることが多く、実際に試してみると、確かにそのままでは後からインストールしたペンタブしか使用できない場合があります。

 本記事では、Windows PCに複数のペンタブレット液晶ペンタブレットを同時に接続し、ともにペン入力デバイスとして認識されてポインタを動かせるなど最低限動作している状態として共存させ、『Wintab API』によって入力を受け付けるペンタブを、ペイントソフトごとにユーザが選べるようにする方法を説明します。

 ようするに、通常はペンタブドライバインストール時に System32・SysWOW64 の Wintab32.dllが 上書きされてしまうため、”Wintab API で入力を受け付ける場合には、どのペイントソフトでも XP-PEN か Wacom のどちらかしか使用できない”といういところを、”Wintab API で入力を受け付けつつも、CLIP STUDIO PAINT では XP-PEN のペンタブを使用し、Photoshop では Wacom のペンタブを使用する”というように、ソフトごとに使用するペンタブをユーザが選べるようにするための方法です。

 なお、本記事では、エクスプローラーの設定を変更して拡張子が表示されている前提で、拡張子も含めたファイル名を用いて説明しています。ファイルの拡張子が表示されていない状態(Windows の初期設定)では目的のファイルを探しづらいと思いますので、適宜対処してください。

免責(定番のお約束事

 本記事を参考にした結果発生した何らかの損失・損害については、誰も責任を負いませんので、本記事を参考にした人の責任において対処してください。

目次

前提知識 『Wintab API』と『Tablet PC API』について

 2018年現在の Windows PC でペンタブを使えるようにする技術(以下 API )には、『Wintab API』と『Tablet PC API』(Windows Ink や Windows APIと表記しているソフトもある)の二種類があり、ペンタブを使って絵を描くためには、ペンタブとペイントソフトの双方で同じAPIに対応している必要があります。以下に各APIの概要を示します。

 

API

対応ソフト

対応ペンタブ

通常手段での複数ペンタブ同時使用

Wintab API

(こちらが先発)

Photoshop CS系・CC系

CLIP STUDIO PAINT

SAI・SAI Ver.2

GIMP 2

MediBang Paint Pro

その他ペンタブ対応の古いペイントソフト

Wacom

中国メーカ各社

不可能

Tablet PC API(ソフトによってはWindows Ink、 Windows APIと記載している場合もある)

(こちらが後発)

Photoshop CC系

CLIP STUDIO PAINT

SAI・SAI Ver.2

MediBang Paint Pro

その他概ねWindows Vista~7あたりより後にリリースされたペンタブ対応の新しめのペイントソフト

Wacom

中国メーカ各社

Surface、raytrektab など各種タブレットPC

可能

 

『Wintab API』で複数のペンタブを同時使用できない理由

『Wintab API』を使用するペイントソフトでは、通常ペンタブドライバインストーラによって C:\Windows\System32 フォルダと C:\Windows\SysWOW64 フォルダの両方にインストールされる Wintab32.dll というDLLファイルを使用してペンタブから入力を得ており、このファイルは、ペンタブメーカ各社が自社のペンタブ用に作ったものがインストールされています。

 しかし、ペンタブメーカ各社のドライバインストーラは、 System32 フォルダと SysWOW64 フォルダに既に他社製の Wintab32.dll が存在していても、自社ペンタブ用の Wintab32.dll を上書きしてしまうため、『Wintab API』を使用できるペンタブは、あとからドライバをインストールしたペンタブのみとなり、その前にドライバをインストールしていたペンタブでは筆圧感知が機能しないなど正常に動作しなくなります。

ペイントソフトが Wintab32.dll を探す順番と、それを利用したペンタブ~ペイントソフトの対応付け

 ペイントソフトはペンタブから入力を得るために、ペイントソフト起動時に Wintab32.dll を PC 内の決まった場所から順番に探すようになっています。前述のペンタブドライバインストーラが、Wintab32.dll をインストールする場所の System32 フォルダ と SysWOW64 フォルダは、そのような決まった場所の一種です。

 さて、ペイントソフトが Wintab32.dll を順番に探していく場所にはいくつか候補があって、System32 フォルダ や SysWOW64 フォルダよりも前に探す場所があり、それがペイントソフト自身の実行ファイル(.exe)が存在するフォルダです。

 つまり、ペイントソフト自身の実行ファイルが存在するフォルダに Wintab32.dll を配置してあげると、 System32 フォルダや SysWOW64 フォルダにある Wintab32.dll よりも先に読み込むため、そのソフトでは他の場所にある Wintab32.dll は使用しなくなります。

 この動作を利用すると、ペイントソフトで使用したいペンタブ用の Wintab32.dll をユーザが選び、手作業でペイントソフトの実行ファイルと同じフォルダへ配置すれば、ペイントソフトで使用するペンタブをユーザが選べるようになります。

実践例 2台のペンタブを同時に接続し、異なるペイントソフトで共に『Wintab API』を使用してペンタブを使い分ける

 ここからは、Artist16Pro と One by Wacom を一台のPCへ同時に接続し、両機とも『Wintab API』を使用して、CLIP STUDIO PAINT(64bit 版)では Artist16Pro、Photoshop CS5(32bit 版)では One by Wacom を使い分けられるようにする手順を説明します。CLIP STUDIO PAINTPhotoshop ともに64bit版でも構いませんが、説明の都合上 Photoshop は 32bit 版とします。また、Windows は 64bit 版を想定しています。

 

ペイントソフト

使用する
ペンタブ

使用する Wintab32.dll

Wintab32.dll の
コピー先

CLIP STUDIO PAINT(64bit 版)

XP-PEN
『Artist16Pro』

XP-PENペンタブドライバインストーラによって System32 フォルダへインストールされるもの

CLIPStudioPaint.exeと同じフォルダ *1

Photoshop CS5(32bit 版)

Wacom
『One by Wacom

Wacomペンタブドライバインストーラによって SysWOW64 フォルダへインストールされるもの

Photoshop.exeと同じフォルダ *2

*1 C:\Program Files\CELSYS\CLIP STUDIO 1.5\CLIP STUDIO PAINT

*2 C:\Program Files (x86)\Adobe\Adobe Photoshop CS5

手順1 Wacom 用の Wintab32.dll を準備する

 それぞれのペイントソフトのフォルダに配置する Wintab32.dll を準備します。まずWacomのドライバをインストールしました。

 Wintab32.dll は、ペンタブドライバインストーラにてドライバをインストールすると、C:\Windows\System32 フォルダと  C:\Windows\SysWOW64 フォルダにインストールされます。この段階では、Wacom 用の Wintab32.dll がインストールされています。

 System32 フォルダの Wintab32.dll は 64bit アプリケーション用、SysWOW64 フォルダの Wintab32.dll は 32bit アプリケーション用です。後ほどペイントソフトの種類(64bit か 32bit か)に合わせて選択するので、両方のフォルダの Wintab32.dll を、それぞれを見分けられるようにしてデスクトップなど判りやすい別の場所にコピーします。

手順2 XP-PEN 用の Wintab32.dll を準備する

 次に XP-PEN Artist16Pro 用のドライバをインストールしました。

 こちらもWacom用と同様に System32 フォルダと SysWOW64 フォルダに、XP-PEN用の Wintab32.dll が上書きされているため、両方のフォルダの Wintab32.dll を、見分けがつくように別の場所へコピーします。

手順3 CLIP STUDIO PAINT(64bit 版) の実行ファイルがあるフォルダに XP-PEN 用の Wintab32.dll の 64bit アプリケーション用をコピーする

 CLIP STUDIO PAINT(64bit 版)の実行ファイルは、
C:\Program Files\CELSYS\CLIP STUDIO 1.5\CLIP STUDIO PAINT フォルダにあるため、同フォルダに、System32 フォルダからコピーしておいた XP-PEN 用の Wintab32.dll をコピーします。

手順4 Photoshop CS5(32bit 版) の実行ファイルがあるフォルダに Wacom 用の Wintab32.dll の32bitアプリケーション用をコピーする

 Photoshop CS5(32bit 版)の実行ファイルは、
C:\Program Files (x86)\Adobe\Adobe Photoshop CS5 フォルダにあるため、同フォルダに、SysWOW64 フォルダからコピーしておいた Wacom 用の Wintab32.dll をコピーして作業完了です。

 作業が終わったら各ペイントソフトを起動して、意図したとおりのペンタブ~ペイントソフトの組み合わせで正常に動作しているか確認してください。

ペンタブの使い分けをやめるには

 ペイントソフトの実行ファイルと同じ場所にコピーした Wintab32.dll を削除すれば、そのペイントソフトの次回起動時には System32 フォルダまたは SysWOW64 フォルダの Wintab32.dll を探しに行くように戻ります。

ペンタブドライバ バージョンアップ時の注意点

 当然のことですが、ペンタブドライバの新しいバージョンをインストールしても、ユーザが手作業で各ペイントソフトのフォルダへコピーした Wintab32.dll は更新されないため、必要に応じてユーザ自身で差し替えを行ってください。