raytrektab DG-D08IWP 内蔵液晶パネル カラープロファイル(2017年8月購入個体作成)
X-Rite ColorMunki Display同梱測定器などを使用してraytrektab内蔵液晶画面のソフトウェア・キャリブレーション(ディスプレイの発色の測定と調整)を行い、画面の色を改善するICCプロファイル(カラープロファイル)を作成したので公開します。
本カラープロファイルを使用することで、raytrektabの初期状態では緑がかった内蔵液晶パネルの発色を正しい色に改善できる可能性があります。
手っ取り早くカラープロファイルをダウンロードしたい方はこちら
- raytrektab内蔵液晶パネルの発色について
- 本カラープロファイルの作成に使用したraytrektab
- 本カラープロファイルを使用できる可能性があるraytrektabの条件
- 本カラープロファイル作成時の環境・設定
- 本カラープロファイルを使用する際の注意
- 免責
- 本カラープロファイルの使用方法
- 本カラープロファイルの応用
- raytrektab以外の液晶パネルやディスプレイ装置の表示ついて
- あとがき
raytrektab内蔵液晶パネルの発色について
図 raytrektab内蔵液晶パネル色域とsRGB色域の比較(ColorACにて作図)
白線: raytrektab内蔵液晶パネルで表示できるsRGB色域部分
黒線: sRGBで規定されている色域
水色線: raytrektab内蔵液晶パネルで表示できる色域
raytrektabは低価格を実現するためか、イラスト制作用としてはお世辞にも高性能とは言えない液晶パネルを内蔵しており、その発色には癖があります。
色域の狭さ
raytrektab内蔵液晶パネルに表示できる色の範囲(色域)は、sRGB(PCやその周辺機器で色を扱う際に一般的に用いられる標準規格)で規定されている色域よりも狭いため、sRGBカバー率9割以上の液晶ディスプレイとraytrektab内蔵液晶パネル双方に、sRGB色域の端の方の色(濃く鮮やかな色)を使った同じカラー画像を表示して比べると、raytrektab内蔵液晶パネルの表示は色の鮮やかさに欠ける(彩度が低い)表示になります。
RGB3原色のカラーバランス崩れ
赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色のカラーバランスについても、キャリブレーションを行っていない状態では緑(G)のみが突出して強く表示されているために画面の色が緑がかっていることが多いようで、そのままキャリブレーションを行わずにイラストの彩色作業などをしてしまうと、カラーバランスが良好なディスプレイ装置でその作品を表示した際に、制作時の意図からずれた色で表示される恐れがあります。
幸いにも、Windows10にはディスプレイの発色を目視で調整する機能が標準で備わっているため、この機能を使用してraytrektab内蔵液晶パネルのRGB3色のバランスをうまく調整できれば、カラーバランスの問題はある程度改善することができます。しかし目視調整では、調整の基準とする色の見本を用意しなければならず、調整の細かさにも問題があるため、正確な調整は困難です。
正確な発色を求める場合は、キャリブレーションツール製品の測定器を使用して液晶パネルの発色を機械的に測定し、自動で発色の調整を行わせる必要があります。今回公開するカラープロファイルはこの方法で作成されています。
キャリブレーションを行っても、raytrektab内蔵液晶パネルの色域の狭さ(濃く鮮やかな色を表示できない問題)を解決することはできませんが、RGB3原色のカラーバランスについては、本カラープロファイルを適用することで、カラーバランスを整え、sRGBで採用されている色温度6500K ガンマ値2.2 に調整し、色被りを極力無くした表示に改善できる可能性があるため、raytrektabで扱えるsRGB色域75.2%内の色で彩色したり、モノクロ画像を扱う際の違和感はだいぶ改善できると思います。
本カラープロファイルの作成に使用したraytrektab
- 2017年8月 関東のドスパラ店頭にて購入
- キャリブレーションを行っていない状態では、内蔵液晶パネルの発色が緑がかっている
- 購入当時キャンペーンプレゼントだったアンチグレア保護フィルムを貼付した状態でキャリブレーションを実施した
「Diginnos Tablet DG-D08IWシリーズ対応 アンチグレア液晶保護フィルム」
本カラープロファイルを使用できる可能性があるraytrektabの条件
- 本カラープロファイルの作成に使用したraytrektabと同時期(2017年8月)に販売されていた(これは必須条件ではなく、製造・販売時期が異なっていても同一特性の液晶パネルを搭載しているのならば問題ないため、販売時期はあくまで目安です)
- キャリブレーションを行っていない状態では、内蔵液晶パネルの発色が緑がかっている(これは必須条件です)
本カラープロファイル作成時の環境・設定
- OS: Windows10 Ver.1709
- 測定器: X-Rite ColorMunki Display 同梱センサ(2018年1月新品購入品)
- 測定アプリケーション: DisplayCAL 3.4 + ArgyllCMS 2.0.0
- 目標色温度・ガンマ値: 色温度6500K ガンマ2.2
- バックライト輝度: Windows10のアクションセンターの明るさ表示で「50%」または「おすすめ」相当 151.28cd/㎡
本カラープロファイルを使用する際の注意
コンピュータのディスプレイは、液晶パネルを内蔵している製品が同じものでも、液晶パネルの製造メーカ・製造時期・個体・経年変化によって発色に差があることが一般的によくあります。
そのため、正しい発色や、別個体または異なる液晶パネル同士で極力同一の表示を求める場合には、本来はキャリブレーションツールを使用して個々の液晶パネルごとにキャリブレーションを行って、その液晶パネル専用の補正値を含んだカラープロファイルを作成する必要があります。
ただ、液晶パネルの製造メーカ・製造時期が近い場合は、発色の傾向がほぼ同様の場合があります。このような場合には、異なる個体間でもカラープロファイルを流用できる可能性があるため、本カラープロファイルを使用することで、お持ちのraytrektab内蔵液晶パネルの表示を改善できる可能性があります。
なお、本カラープロファイルの作成に使用したraytrektabとは異なる発色の傾向を持つ液晶パネルを内蔵するraytrektabに本カラープロファイルを使用した場合は、異常な発色になる可能性がありますので、明らかに発色がおかしくなった場合は、本カラープロファイルの使用を中止してください。本カラープロファイルをWindowsの [色の管理] から削除してWindowsを再起動すれば元の発色に戻ります。
免責
ここまで述べてきたように、本カラープロファイルは、あくまで本カラープロファイルを作成した個体の内蔵液晶パネルの発色を調整するための情報と、発色の特性の情報が記録されたものであるため、すべてのraytrektabで支障なく使用できるとは限りません。
厳密に正しい発色を求める場合は、本来ならば個々の液晶パネルごとに、測定器を用いた定期的なキャリブレーションを行う必要があることをご理解ください。
本カラープロファイルを使用した結果発生した何らかの損失・損害については、誰も責任を負いませんので、本カラープロファイルを使用した人の責任において対処してください。
本カラープロファイルの使用方法
- 下記URLからカラープロファイルをデスクトップなど判りやすい場所にダウンロードします。
http://firestorage.com/download/38a01a213de0d9b9b2ac8065488f602d46d8ace6
ファイル名「raytrektab DG-D08IWP HYV080 #1 2018-02-06 20-35 D6500 2.2 F-S XYZLUT+MTX.icm」 - [コントロール パネル] の [色の管理] を開き、その中の [デバイス] タブを開きます。
- [デバイス(D):] が [ディスプレイ:]某 となっているものを開いて、[このデバイスに自分の設定を使用する(U)] チェックボックスをチェックし、[追加(A)] ボタンを押して [カラー プロファイルの関連付け] ダイアログボックスを開きます。
- [参照(B)] ボタンを押して [プロファイルのインストール] ダイアログボックスが開いたら 、手順1でダウンロードしたカラープロファイルのファイルを選択して [追加] ボタンを押します。
- [このデバイスに関連付けられたプロファイル(F):] の一覧に手順4で選択・追加したカラープロファイルが追加され、他のカラープロファイルが設定されていないことを確認できればカラープロファイルの設定は完了です。もし、他のカラープロファイルが一覧に表示されている場合は、手順4で選択・追加したカラープロファイルを選択して [既定のプロファイルに設定(S)] ボタンを押します。
図 カラープロファイル設定完了後
最終的に下記画像のようになれば、カラープロファイルの設定は完了です。
本カラープロファイルの応用
本カラープロファイルは、raytrektab実機内蔵液晶パネルの測定を行って作成しており実機液晶パネルの特性に関する情報が含まれています。そのため、本カラープロファイルをPhotoshopやGIMPなどのカラーマネジメント対応アプリケーションにおいて『色の校正』や『プロファイル変換』(Photoshop)などの機能で使用すると、本カラープロファイルを作成したraytrektab内蔵液晶パネルでの画像の見た目を再現できるようになります。
「raytrektabだけで彩色作業を行った作品を他の表示環境で表示させたら、発色が過度に鮮やかなものになってしまい、彩色作業時の意図とは異なってしまった」などといった際に、『色の校正』や『プロファイル変換』相当の機能で本カラープロファイルを利用すると、本カラープロファイルを作成したraytrektab内蔵液晶パネルでの見た目を再現したRGB値に作品のRGB値を自動で修正することができます。詳しくは「カラーマネジメント プロファイル変換」などのキーワードに関連するWebページをご覧ください。
raytrektab以外の液晶パネルやディスプレイ装置の表示ついて
参考までに、他の液晶パネルやディスプレイ装置のsRGBカバー率と未調整時の強いカラーバランス崩れの有無を以下に示します。
前述の通り、sRGBカバー率が低い液晶パネルにおいて見た目そのままで彩色作業を行ったデータを、sRGBカバー率が100%に近く、きちんとキャリブレーションされた環境で表示した場合は、だいたいは彩色作業時に見ていた色より彩度が高い見た目になります。
機種・型番・価格帯 |
パネル |
sRGBカバー率 |
カラーバランス崩れ |
raytrektab DG-D08IWP 18年現行 実売5万円程度 |
明記無 IPS? |
75.2% |
緑が強い |
DG-D08IW2 16年当時 実売2万円程度 |
明記無 IPS? |
78.1% |
青が強い |
18年現行 実売7万5千円程度 |
IPS |
99.9% |
特になし |
EX-LD2381D DVI入力 18年現行 実売1万4千円程度 |
ADS |
97.5% |
特になし |
EX-LD2071T HDMI入力 18年現行 実売1万1千円程度 |
明記無 TN? |
98.0% |
赤と緑が強いため黄色かぶり |
法人向けノートPC HP ProBook 430 G3 15年当時 実売5万円程度 Panasonic CF-W7C 08年当時 実売20万円程度 |
明記無 TN? |
50%程度 |
ProBook 青が強い |
表 raytrektabと他の液晶パネルやディスプレイ装置のsRGBカバー率・未調整時の強いカラーバランス崩れの有無。情報の出典はiPad・iPhone以外実測。iPhone8は実機目視確認。
iPad Pro・iPhone8情報の出典
あとがき
Twitterでraytrektabの内蔵液晶パネルの発色について苦言を呈しておられる方を時々見かけ、自分自身でも、キャリブレーションを行っていない状態のraytrektab内蔵液晶パネルの発色には、ラフなど気軽なお絵かき用のタブレットPCだとしても少々問題があると感じていたため、せめて自分のraytrektabと液晶パネルの特性が近い同機種をお持ちの方のお役に立てればと思い、本記事ならびに本カラープロファイルを公開しました。
raytrektab DG-D08IWPは、価格より性能が優先されるような高級機ではなく、価格をできるだけ抑えて様々な人の手が届くようにすることで、「どこでも画面に直接絵をかける」という体験を、誰にでも提供できるようにした製品と理解していますので、低価格化の結果としてハードウェアの性能が制限されてしまうことは仕方が無いことだと考えています。高性能な部品は高価ですから。
また、身も蓋もない言い方になりますが、そもそもコンピュータのディスプレイ装置は、量販店などで複数のディスプレイ装置に同じRGB値を持つ画像を表示して比べると判るように、工場出荷時の状態では製品や製造ロットによってカラーバランス・色域がまちまちです。
製品仕様で色域のカバー率と色の再現性に優れていることを謳うデザイン作業用のディスプレイ装置を備え、きちんと継続的にキャリブレーションを行った環境以外では、sRGB準拠の表示すら実現できていない可能性があります。
全ての人が広色域でカラーバランスが正確な高性能ディスプレイ装置を備えた端末を持ち、継続的にキャリブレーションを実施できているわけがありませんので、異なるディスプレイ装置間での色の再現性は、raytrektabでなくともどのみちどこかで妥協が必要です。
静止画像を扱う上でのraytrektab内蔵液晶パネルの出荷時状態の欠点は、色域の狭さとカラーバランスの崩れです。このうちカラーバランスはキャリブレーションでだいぶ改善されるため、色相が微妙にずれた色で彩色してしまうようなことは無くなると思います。
色域の狭さ(濃く鮮やかな色を表示できない問題)は根本的には解決できませんが、色が薄く淡い(彩度が低い)作風ならば、『プロファイルの変換』を行えば他の(sRGBに準拠した)ディスプレイ装置でも意図したとおりの色をほぼ再現できるため、色域の狭さはあまり気にならないかもしれません。
以上のことから、raytrektab内蔵液晶パネルは欠点があるものの、内蔵液晶パネルのカラープロファイルがあれば、使い方と作風次第でカラーでも実用は可能だと考えています。
ドスパラのraytrekブランドはクリエイター向けのPCブランドとして売り込んでいるようですし、「raytrektabをドスパラ店頭に持ち込むと内蔵液晶パネルのソフトウェア・キャリブレーションを行い、カラープロファイルを作成してくれる」などといったサポートサービスがあってもいいのではないかと思います。今後そのようなサービスが提供されることを期待しています。